
ストップモーションの不気味さとホラーの相性は抜群だ。人形のぎこちない動きや手作業の質感が、実写やCGには出せない“異様さ”を生み出す。そんなストップモーション・ホラーの世界から、『オオカミの家』『ボビー・イエー』『ストリート・オブ・クロコダイル』をはじめとする注目の10作品を厳選して紹介する。
ストップモーション・ホラー映画おすすめ12選【2025年6月更新】
『オオカミの家』(2018年)

チリ南部、実在のカルト集団「コロニア・ディグニダ」から逃れた少女マリアが、森の中の一軒家で豚と出会い、幻想と悪夢が交錯するストップモーション・アニメ。家は感情に応じて変化し、支配の恐怖と解放の葛藤を映し出す。映画『ミッドサマー』のアリ・アスターも絶賛した異色の〈ホラー・フェアリーテイル〉。
『ボビー・イエー』(2011年)

ロバート・モーガン監督による英国発の23分スプラッター系ストップモーション・ホラー短編。弱者のような異形の“ボビー・イエー”が、魔性の赤いボタンを押すたびに悪夢的なクリーチャーと遭遇し、奇怪で狂気じみた世界をさまよう。BAFTAノミネートにも輝いた本作は、理屈を超えた禍々しさと不可解なユーモアが共存。悪夢を具現化したような作品だ。
『H・P・ラヴクラフトの ダニッチ・ホラー』(2007年)

『H・P・ラヴクラフトの ダニッチ・ホラー』は、品川亮監督が原作3編を、日本のストップモーション技法“画ニメ”で再構築した全約46分のオムニバス・アニメ。土着的な不穏と異形の儀式が絡み合う地下深くの恐怖を、粘土造形と静謐な画面で静かに描き出す異端的ホラーヴィジョン。
『JUNK HEAD』(2017年)

ロボットの身体を得た探検者が、寿命は伸びたが繁殖力を失った人類の希望を託され、地下深くで進化した人工生命“マリガン”たちの社会へと下る。廃墟と生体怪物が交錯する地下世界を、140,000コマ超のストップモーションで紡ぐディストピア・サイエンスフィクション。大規模な個人制作ながら国際映画祭で高評価を獲得し、ギレルモ・デル・トロも「狂気の天才」と称賛した一作。
『ストップモーション』(2023年)

母親から引き継いだ未完のストップモーション作品を完成させようとする女性エラが、謎の少女の助言に従ううちに現実と虚構の境界が崩壊し、狂気と恐怖が交錯する93分の心理ホラー。英国発の初長編作は、実写と撮影コマ数1枚ずつ動くアニメを融合した独特の映像美で、シッチェス国際映画祭などで高く評価された。
『マッドゴッド』(2021年)

フィル・ティペットが30年を費やし完成させたストップモーション・アニメ『マッドゴッド』は、ガスマスクと時限爆弾を携えたアサシンが地下深くの地獄世界を探検し、無数の怪物や残虐なシステムと遭遇するダークファンタジー。セリフや説明を排して映像と音響で恐怖と狂気を描き出す実験的ホラー作品。
『血のお茶と紅い鎖』(2006年)

『血のお茶と紅い鎖』(原題:Blood Tea and Red String)は、Christiane Cegavske監督による2006年制作の人形ストップモーション映画。貴族の白ネズミが地下住人に少女の人形製作を依頼するが、地下の住人は愛着から返却を拒み、お腹に卵を縫い付け大樹に飾る。そこから人形を巡る旅が幻想的かつ不穏な闘争へと展開される全71分の寓話的ダークファンタジー。
『ヴィンセント』(1982年)

ティム・バートンが自身の詩をもとに1982年に6分の白黒ストップモーションで映像化した作品。7歳の少年ヴィンセント・マロイがホラー俳優ヴィンセント・プライスに憧れ、愛犬をゾンビ化しようとする幻想と現実の境界が崩れるゴシック詩劇。ナレーションはプライス本人が担当し、バートンと彼の創作的出発点を象徴する短編作品。
『ストリート・オブ・クロコダイル』(1986年)

ロンドン在住のクウェイ兄弟が、ブルーノ・シュルツ原作の雰囲気を基に制作した21分のストップモーション作品。博物館の覗き箱を軸に、埃と錆にまみれた人形と機械部品が奇妙な儀式を繰り広げ、無言の底知れぬ不安と孤独を映し出す《夢遊的ホラー》と呼べる映像詩。
『マイリトルゴート』(2018年)

『マイリトルゴート』は、東京藝術大学大学院修了制作として見里朝希監督が1年かけて制作したフェルト人形ストップモーション・アニメ(約10分)。グリム童話「狼と7匹の子ヤギ」をモチーフに、狼の胃から子ヤギたちを救う母ヤギだが、長男だけは見つからず、成長した人間の少年を代わりとして迎える。過保護の愛と暴力の境界を問いかける寓話的ホラー作品で、多数の国際映画祭で受賞を重ねた。
『The Cat With Hands』(2001年)

ロバート・モーガン監督による2001年制作の英短編ストップモーション・ホラー。井戸にすむ猫が手のような前肢を持ち、人間の身体部位を奪い取るという民話的語りで展開する異形の寓話。ライブアクションと人形アニメが交錯し、わずか約3分半で夢と悪夢を織り交ぜた暗黒の怪奇世界を濃密に描き出す作品。
『さまよう心臓』(2011年)

『さまよう心臓』は、東京藝術大学大学院修了制作として秦俊子監督が手掛けた約10分のストップモーション・ホラー短編。廃墟で遊んでいた高校生らが、得体の知れない“何か”に心臓を奪われる恐怖を鮮烈に描き、無言の演出と造形の不気味さが視覚的緊迫感を生む衝撃作。