ホラー漫画の巨匠・伊藤潤二のおすすめ作品まとめ|代表作から初心者向けまで

ホラー漫画界において異彩を放つ伊藤潤二は、独自の画風と不条理な恐怖演出で世界中に熱狂的な読者を持つ存在だ。この記事では、初めて読む人にもわかりやすい代表作から、短編集や海外でも人気の話題作まで、伊藤潤二のおすすめ作品を厳選して紹介する。

目次

ホラー漫画の巨匠・伊藤潤二とは?

伊藤潤二氏は1963年、岐阜県中津川市に生まれた。歯科技工士として働きながら漫画を描き始め、1986年に『富江』でデビュー。その後、『うずまき』『ギョ』など数々のホラー作品を発表し、世界的な評価を得ている。2019年には『フランケンシュタイン』でアイズナー賞最優秀コミカライズ作品賞を受賞し、国際的な名声を確立した 。

伊藤潤二作品における恐怖は、ジャンプスケア的なものではなく、じわじわと精神を蝕んでくるタイプのものが多い。その源泉となるのが、精緻なペン画と異様な構図、そして不可逆な状況の描写だろう。『ギョ』における脚の生えた魚の大群や、『首吊り気球』に登場する自殺を誘発する巨大な人面気球など、視覚的インパクトの強さと意味不明な恐怖が共存する点が伊藤潤二の真骨頂とも言える。「意味が分からないからこそ怖い」という恐怖原理を、紙面の中で完璧に成立させている。

漫画『ギョ』第4話・ホオジロザメ侵入
漫画『ギョ』第4話・ホオジロザメ侵入より

伊藤潤二の代表作・有名作を解説(初心者必見)

伊藤潤二の作品は、日常の中に潜む違和感や狂気を繊細に描くことで知られている。代表作の一つ『うずまき』は、架空の町・黒渦町を舞台に、人々が「螺旋」という形状にとらわれ、次第に狂気に陥っていく様子を描いている。日常が少しずつ非現実に侵食されていく恐怖がじわじわと伝わってくる作品だ。

漫画『うずまき』第10話・蚊柱
漫画『うずまき』第10話・蚊柱より

『富江』は、美貌の少女・富江が、殺されても再生を繰り返し、周囲の人間を狂わせていくシリーズである。その存在は美しさと不気味さを併せ持ち、人間の欲望や執着を鋭くあぶり出している。

漫画『伊藤潤二傑作集』富江
漫画『伊藤潤二傑作集』富江より

また『死びとの恋わずらい』では、死者との恋という禁断のテーマを扱い、生と死の境界が曖昧になる中での登場人物の心情が丁寧に描かれている。いずれも、伊藤潤二の世界観を理解するうえで欠かせない作品だ。

漫画『死びとの恋わずらい』第1話・四つ辻の美少年
漫画『死びとの恋わずらい』第1話・四つ辻の美少年より

編集部が選ぶ、伊藤潤二のおすすめ作品ランキングTOP10

ここからは、編集部がおすすめする伊藤潤二作品をランキング形式で紹介。

1位『うずまき』

うずまき

螺旋模様にとり憑かれた町と住人たちの狂気を描いた代表作

海辺の町・黒渦町に暮らす高校生の五島桐絵と斉藤秀一。ある日、秀一の父が“うずまき”模様に取り憑かれたように執着し始め、町では次第に奇妙な死が相次ぐ。火葬場の煙は渦を巻き、やがて池へと吸い込まれていく。住民たちの身体にも螺旋模様が現れ、町には“うずまき”が蔓延し、出口のない狂気に包まれていく。

2位『富江(伊藤潤二傑作集 1)』

富江(伊藤潤二傑作集 1)

不死身の美少女・富江が周囲を狂わせる一連の物語

川上富江は、長い黒髪と泣きぼくろが特徴的な美少女。その魅力に男たちは抗えず惹き込まれていく。だが彼女と関わった男たちは次第に異常な殺意を抱き、富江を殺害しようとする。しかし富江は何度殺されても蘇り、分裂と再生を繰り返しながら増殖を続けていく。そんな彼女がもたらす破滅を描いたサスペンスホラー作品。

3位『死びとの恋わずらい(伊藤潤二傑作集 4)』

死びとの恋わずらい(伊藤潤二傑作集 4)

死者と恋に落ちた少年少女を描いた異色の作品

中学生の深田龍介は、幼い頃に住んでいた難澄市へ引っ越し、幼なじみの柴山みどりと再会する。ほどなくして、辻占いをしていた少女たちが謎の美少年と出会った直後に自殺する事件が続発。龍介はかつて自分の辻占いが原因で女性を死に追いやった過去を悔い、その女性がみどりの叔母だったことを知る。そして事件を止めるべく、美少年の正体を追い始める。

4位『ギョ』

ギョ

異常進化した魚が人間を襲う

沖縄を訪れた忠と華織は、海辺で足の生えた奇妙な魚と遭遇する。その魚は強烈な悪臭を放っていた。やがて東京にも歩行魚が現れ、二人を追うように出没し始める。忠は発明家の叔父・小柳を頼り、調査を依頼する。小柳は調べを進める中で、戦時中の日本陸軍による極秘研究にたどり着く。そんな中、華織の身体に不可解な異変が生じはじめる。

5位『首吊り気球(伊藤潤二コレクション 79)』

首吊り気球(伊藤潤二コレクション 79)

巨大な人面気球が人を吊るす

アイドルタレントの藤野輝美が首を吊った状態で発見される。親友の森中和子は、輝美の交際相手だった白石晋也からの連絡を受け、夜の寺へと急ぐ。そこで和子の目に映ったのは、藤野輝美の顔をした巨大な浮遊物だった。恐怖と混乱が、静かな寺に広がっていく。

6位『フランケンシュタイン(伊藤潤二傑作集 10)』

フランケンシュタイン(伊藤潤二傑作集 10)

メアリー・シェリーの名作を伊藤潤二が独自の解釈で描いた一作

北極を航行中のロバート・ウォルトン一行は、氷上で倒れていたヴィクター・フランケンシュタインを救出する。彼は大学で生命の謎を解き明かし、死体をつなぎ合わせて巨大な人造人間を生み出していた。逃げ出したその存在は言葉を覚え、人間らしさを持つようになるが、醜い外見のせいで拒絶され、やがて創造主であるフランケンシュタインに復讐を誓う。

7位『あやつり屋敷(伊藤潤二コレクション 80)』

あやつり屋敷(伊藤潤二コレクション 80)

人形に操られる人々の姿を描いた作品

治彦の父は、あやつり人形劇を行う旅一座の座長。母はすでに家を出ており、残されたのは兄・雪彦と妹・夏美だけだった。やがて雪彦は、操っていた人形ジャン・ピェールに不信を抱き家を出る。さらに父も病で亡くなってしまう。しばらくして届いた兄からの手紙を頼りに訪ねると、そこには立派な屋敷があった。だが玄関に現れたのは、天井から吊られたジャン・ピェールの姿だった。

8位『双一の勝手な呪い(伊藤潤二傑作集 3)』

双一の勝手な呪い(伊藤潤二傑作集 3)

悪戯好きで不気味な少年・双一を主人公にした短編

陰気な雰囲気をまとい、「超人的な能力」を持つ少年・双一は、クラスでも家庭でも孤立した存在だった。周囲からは不気味がられながらも無視される中、彼は一方的な思い込みで相手に呪いをかけていく。その呪いがもたらす結末は、誰にも予想できないものだった。

9位『押切異談(伊藤潤二コレクション 99)』

押切異談(伊藤潤二コレクション 99)

日常にひそむ異常を描いた短編集

自分の住む屋敷に、別の次元から来た人間が入り込んでいるのではないか。そんな疑念を抱き始めたのは、クラスメートの藤井未央が突然、押切の屋敷に姿を現したことがきっかけだった。クラス内でのトラブルを機に押切と距離が近くなった未央は、彼の屋敷を見てみたいと頼む。押切は必死に止めようとするが、未央の強引な説得に屈してしまい、ついに屋敷へと案内する。そして、未央が敷地に足を踏み入れたその瞬間、何かが動き始める。

10位『脱走兵のいる家(伊藤潤二傑作集 5)』

脱走兵のいる家(伊藤潤二傑作集 5)

戦争の傷跡が残る家庭に入り込む脱走兵を描く一作

阿寺の家にある土蔵には、脱走兵の古川がひっそりと身を潜めていた。しかし戦争はすでに8年前に終結している。実は阿寺は復讐心から、戦争がまだ続いていると古川に信じ込ませ、長年にわたり彼を閉じ込めていたのだった。そしてある年の花火大会の夜、阿寺は空襲を装い、古川をさらに追い詰めようとするが――。

初心者にはアニメ『マニアック』もおすすめ

アニメ『マニアック』第4話・四重壁の部屋
アニメ『マニアック』第4話・四重壁の部屋より

伊藤潤二の世界を初めて知るなら、Netflixで配信中のアニメ『マニアック』もおすすめ。代表作が短編アニメで楽しめ、原作ならではの不気味さを映像で体感できる。本稿で紹介した漫画を手に伊藤潤二ワールドへ足を踏み入れてみてはいかがだろうか。

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