
21年前の2004年6月17日、コナミはPlayStation 2およびXbox向けにホラーゲーム『SILENT HILL 4 THE ROOM(サイレントヒル4 ザ・ルーム)』を発売した。それは、当時すでに確立された人気シリーズ『サイレントヒル』における4作目でありながら、過去の3作品とは大きく趣を異にした“異端”の作品だった。閉ざされたアパートの一室から始まる物語、室内に現れた謎の穴、現実と異界を行き来する移動システムなど、従来の構造を覆すようなゲーム体験は、21年が経過した今もファンの記憶に深く刻まれている。
舞台はアメリカ東部の架空都市「アシュフィールド」。主人公のヘンリー・タウンゼントは、ある日突然、自室の302号室から出られなくなる。ドアは内側から複数の鎖で封鎖され、外界との通信手段もすべて断たれている。部屋に差し込む光と音は日常のままだが、彼は完全に“閉じ込められた”。そんな中、浴室の壁に突如現れた穴から異界への扉が開かれる。ヘンリーは生存の鍵を求めて、その不気味な世界へ足を踏み入れることになる。

シリーズの代名詞である「霧に覆われた街」から離れ、限定された室内空間と異界を往復する構造に変更された本作は、システム面でも大きな転換を試みた。これまでの作品は町全体を探索し、事件の真相を掘り下げていくスタイルだったが、本作では302号室という“日常空間”がセーブポイントであり、回復地点であり、時に恐怖そのものに変貌する“異常空間”となっている。特に後半ではこの部屋すら安全圏ではなくなり、プレイヤーの精神的な逃げ場が徐々に失われていく演出が印象的であった。

また、『SILENT HILL 4』では視点切り替えも大きな特徴だった。異界探索パートでは三人称視点が採用されていたが、302号室内では一人称視点に切り替わる。この違いが、狭い部屋の中で感じる圧迫感や孤独感を際立たせ、プレイヤーに対して物理的な“密室感”だけでなく、心理的な“閉塞感”を強く印象づけた。

ストーリー面でも、サイレントヒルシリーズの中核である「町そのものが罪を暴き、トラウマを具現化する装置である」というテーマ性は保ちつつ、よりサイコスリラー的な要素が色濃くなっている。登場人物はどこか“断絶”されたような孤立感を抱えており、特に連続殺人犯ウォルター・サリバンの過去と、アパートとの因縁を追っていく展開は、従来のシリーズ作に比べてミステリ色が強い。本作のシナリオは、過去作『サイレントヒル2』に携わった佐藤直子氏によるもので、その人間描写の緻密さや内面の歪みに焦点を当てた作風が高く評価された。

発売当時の反響は決して一様ではなかった。シリーズファンの中には、「街を探索するサイレントヒル」らしさの減退や、アクション寄りのゲームプレイ、NPCエスコートシーンへの不満を抱く者も少なくなかった。一方で、限られた空間の中で恐怖をじわじわと積み上げる演出や、“安全圏すら侵食される”構造に強い衝撃を受けたプレイヤーも多かった。その実験的な構成ゆえ、発売から長らく“異色作”と位置づけられてきたが、近年ではシリーズの枠を越えたホラーゲームの先駆的存在として再評価されつつある。

技術的な側面でも注目すべき点がある。PlayStation 2の性能を活かしたリアルな室内モデリングや、人物の表情・挙動の繊細な描写は、当時の家庭用ゲーム機では高い完成度を誇った。また、サウンド面では山岡晃氏が引き続き作曲を担当し、静寂とノイズ、旋律のない不協和音によって、不安定な精神状態を巧みに表現している。テーマ曲「Room of Angel」は、英語詞と女性ボーカルによって静かな絶望を漂わせる名曲として、現在でも根強い人気を誇る。

本作の発売から21年が経過した2025年現在、『サイレントヒル』シリーズは再始動の兆しを見せており、複数の新作やリメイク企画が進行中だ。その中心的存在となるのが、完全新作として発表された『SILENT HILL f』である。日本の田舎町を舞台に、伝統や呪術、寄生植物といった要素を盛り込んだ同作は、これまで西洋的なホラー表現が中心だったシリーズの方向性を大きく転換させた作品として注目を集めている。脚本には『ひぐらしのなく頃に』で知られる竜騎士07氏が参加し、キャラクターデザインはイラストレーター・kera氏が手がけるなど、国内クリエイターによる色濃い和風ホラーが展開される予定だ。
こうした動きは、かつて『SILENT HILL 4 THE ROOM』が示した“シリーズの枠を越える実験性”とも通じる部分がある。あえて従来のフォーマットに依存せず、恐怖の根源そのものを見つめ直す姿勢は、21年前の“密室ホラー”に通じる革新性だと言える。『SILENT HILL f』が示す新たな地平が、今後シリーズ全体にどのような影響をもたらすのか、その展開が注視されている。