『Good Children Say Grace』に登場する“赤い卵”は完全オリジナル?漫画「おやすみプンプン」に影響を受けた背景など、開発者にいろいろ聞いてみた

デベロッパーのDenis Morozov氏とライターのMilha Vek氏は2026年4月、『Good Children Say Grace』を発売予定。プラットフォームはPC(Steam)。本作は東欧の家族ホラーとダークロマンスを、日本の漫画に着想を得た独自のストーリーテリングで描く心理ホラーアドベンチャーだ。初期のアナウンストレーラーに対して日本から大きな反響があったことを受け、日本語ローカライズを最優先事項として開発が進められている。

主人公は、両親によって「赤い卵」に捧げられたはずの孤児の再来に直面する青年・マーティン。プレイヤーは、3年間にわたる飢餓や憑依、そして極限状態のサバイバルの中で、家族・愛・孤独といった重厚なテーマと向き合うことになる。ビジュアル面では浅野いにおや押見修造ら日本の漫画家から強い影響を受けており、FPS(一人称視点)と2.5D探索を融合させた独特のスタイルが目を引く。また、会話の選択や移動経路といったプレイヤーの細かな意思決定が結末を劇的に変えていく、自由度の高いノンリニアな設計も特徴だ。

本作は2026年3月に無料デモ、4月にエピソード1の公開を予定。本稿では、日本語対応も最優先で進められている本作の、尖ったコンセプトの裏側を開発者に聞いた。

コンセプトとビジュアルスタイルについて

——本作の最大の特徴である「日本の漫画スタイル」を、なぜ「東欧の家族ホラー」というテーマに掛け合わせようと考えたのでしょうか?

Denis Morozov(以下、Denis)氏:
浅野いにお先生と押見修造先生の大ファンです。サイコロジカルホラーというジャンルは読めるものを大体読んできましたが、ある時気づいたんです。日本のメディアに、東欧のリアルな描写がほぼ存在しないということに。 Milhaも私も東欧で育ちました。自分たちが体験してきた話、家族の関係性、その重さ。こうした素材がこのフォーマットで語られたことは一度もなかった。そして『おやすみプンプン』や『惡の華』がサイコロジカルホラーに取り組む方法、日常の居心地の悪い静けさを通して描くやり方は、まさに東欧の生活そのものなんです。この接点は日本の読者にとっても、世界的にも面白いんじゃないかと思いました。

——『おやすみプンプン』に最大のインスピレーションを受けたとありますが、具体的に物語の「絶望感」や「キャラクターの心理描写」において、どのようなエッセンスを取り入れているのでしょうか?

Denis氏:
日本のサイコロジカルホラーで最も好きなのは、キャラクターがトラウマ的な出来事を日常の中でやり過ごしていく描き方です。それを捉えたかった。もう一つの深い影響は「自己からの解離」です。プンプンは鳥として描かれていて、周りの人間はフォトリアルに描写されている。自分自身を外側から観察する。自分の人生が他人に起きているのを眺める。それを私たちの文化的な文脈に持ち込みたかったんです。

——FPS(一人称視点)でありながら2.5D要素を含ませるという視覚的アプローチは、プレイヤーにどのような感情(没入感や疎外感など)を抱かせるために採用したのですか?

Denis氏:
この開発上の選択は、一部はスコープの問題でもありました。私たちは実際にゲームをリリースしたい非常に小さなチームです。3年から5年かけて何かを開発して結局出さないのではなく。キャラクター技術としてMetaHumansを採用し、感情表現にはイタリア人アーティストと制作中の手描きアートワークを用いています。 2Dメディアが持つフラットでイラスト的な質感を、3Dの世界に自然に統合するというのがアイデアでした。一人称視点の時、プレイヤーはその場にいる。視点が2.5Dに切り替わると、漫画のコマを読むように、マーティンを外側から眺めることになる。その内と外の行き来こそが、物語の核にある解離の表現です。 また、固定された一人称カメラではできないフレーミングや感情的な演出も可能になります。閉塞感が必要な瞬間もあれば、他人の物語を読んでいるように感じさせたい瞬間もある。

ゲームプレイとナラティブについて

——本作において「飢え」は物理的な空腹以上の意味を持っているように感じます。この言葉に込められた心理的なメタファーについて教えてください。

Denis氏:
正教会では、飢えは人間の最も根本的な情念とされています。怒りや欲望なら一日我慢できるかもしれませんが、食べ物のことを数時間以上考えずにいることはできない。もし飢えを制することができれば、他のあらゆる欲望も制することができると教えられています。教会における断食は、自分が「欠けているもの」に支配されていないことを学ぶ実践です。 この考えがゲームの中心にあります。すべてのキャラクターが、それぞれ異なる種類の「飢え」に蝕まれている。 正教会のコミュニティでは、苦しみは神に近づくためのものとしてしばしば語られました。飢えについて不平を言わない。この痛みこそが信仰を証明する方法だから。ゲームはその考えをプレイヤーの前に選択として突きつけます。それをどうするかは、あなたの遊び方次第です。

——自由なナラティブと、過酷なサバイバル・選択という相反するような2作を例に出されていますが、この「予測不能な体験」をどのように両立させているのでしょうか?

Denis氏:
Milhaも私も、本当の自由と意味のある分岐を提供するゲームのファンです。私のビジョンは、『Stanley Parable』が生み出すフリーロームの感覚、どこにでも行けるという実感と、『Pathologic』のダイアログスタイル、一見取るに足らない選択がまったく予想外の結果につながるあの感覚を組み合わせることでした。プレイヤーには、あらゆる場所のあらゆる角に何か違うものが隠れているかもしれないと感じてほしい。 エピソード形式の利点は、エピソードが進むにつれて、物語を前に進めるだけではないということです。以前のセクションで可能なことも拡張していく。エピソード1の段階で印象的なものが、エピソード3では本当に驚くべきものになると思っています。すべての動きと発した言葉が、プレイヤーが予想しなかった形で体験を変えている。

——トレーラーでも不気味に鎮座する「赤い卵」ですが、これは東欧の伝承に基づくものですか?それとも完全なオリジナル・モチーフなのでしょうか。

Denis氏:
最初のきっかけは『ファーゴ』シーズン3のV.M.ヴァルガでした。「鶏って何だと思う?」と聞いて、鶏はただ卵が次の卵を作るための手段にすぎないと答える。すべては視点の問題だと。鶏は一つの見方をするけど、卵は別の見方をする。それがずっと頭に残っていました。 Milhaも私も、毎年イースターに玉ねぎの皮で卵を赤く染めて育きました。テーブルを囲んで卵をぶつけ合う。食卓で死と再生を再現しているんです。外から見れば、すでにカルト的な何かがある。 だからゲームの中の赤い卵は、その両方です。実際の伝統、復活と犠牲の象徴としての赤いイースターエッグから引いている。そしてそれは、孤立した共同体が信仰の中心に据えるものと同じ役割を果たしています。

開発背景と日本への想い

——VC(ベンチャーキャピタル)出身という経歴は、ゲーム開発においてどのような強み(あるいは独自の視点)を与えていますか?

Denis氏:
本業は今も続けながら自分のゲームを立ち上げようとしていますが、その仕事を通じて、カナダ全土で少なくとも120のインディースタジオと関わってきました。技術分析、クリエイター、プロダクトマネージャーとして。ゲームスタジオとのあらゆる種類のやり取りを経験しています。ゲーム開発の財務面も身をもって経験しましたが、正直なところ、目にしてきたことの一部は、どんな皮肉屋でも動揺するような内容です。比喩的に言えば、札束が燃やされていくを見てきました。 私のアプローチは、Unreal Engineで高度なストーリーパイプラインを構築し、モジュール式の機能を活用・拡張しながら、制作の効率化に集中することです。これはすでに実現済みで、システムは急速に改善されています。Epic MegaGrantへの申請も予定しています。 過去5年間のすべての学びを『Good Children Say Grace』に注いでいます。小さな予算で運営しています。何が作れて何が作れないかは正確に把握しています。大きな夢を見てから削るのではなく、制約からスコープを逆算する。プレス、マーケティング、アウトリーチもすべて自分でやっています。それを分かっていない人に任せるとどうなるか、見てきたからです。

——『GTA V』や『Metro』に携わったベテランたちが参加しているとのことですが、彼らから受けた最も重要なアドバイスは何でしたか?

Denis氏:
ベンチャー・アクセラレーション・プログラムの運営を通じて、驚くほど幅広い才能とつながることができます。大手タイトルからインディーの名作まで。歴代最高の売上を記録したゲームのクリエイター、キャリアのこの段階では次世代への還元に注力しているエグゼクティブレベルの開発者たち。早い段階で学んだのは、本気でコーチングを求めれば、助けたいと思っている人はたくさんいるということです。 私のアプローチは、できるだけ多くの人とつながり、ベストプラクティスを学び、失敗談をできるだけ多く聞いて「やってはいけないこと」を知ることです。アドバイスの中にはとても実践的なものもあります。個人開発者なのにAAA的な考え方をやめること。実際の開発よりも講演で実績を積んでいるコンサルタントには気をつけること。 最も価値のあるアドバイスは、Metroの開発者からもらいました。その方は今も私の制作を積極的にサポートしてくれています。実際に完成できるものを作るためのスコープの逆算方法。プレイヤーが見たいものと、開発者が見せたいと思っているものの違い。そして、どうやって自分の作品を広めるか。Haloの元クリエイティブディレクターのアドバイスを参考に映像制作も学びました。分かっている人から学ぶ。それだけです。 世界中のメディアに載ってきた人たちが共有してくれた言葉があります。「結局、メールを送るだけでしょう?」。実際、その通りでした。

——日本語ローカライズを「最優先事項」としている理由と、将来的に日本の漫画IPと組みたいという夢について、今特に注目しているIPなどはありますか?

Denis氏:
小さなアナウンストレーラーへの日本からの反響を見て、全力で取り組むことを決めました。日本を拠点とするサウンドエージェンシーScarlet Moonとの提携を開始し、シンガーとして中川奈美さん、サウンドディレクター兼キャスティングディレクターとして日比野則彦さんを迎えました。声優も最近正式に決まりまして、その発表は3月中旬を予定しています。 個人的な執着に突き動かされた決断です。仕事だけじゃないでしょう?楽しくないと。ここでやっていることがまさにそうです。 カナダの開発者として、自分が愛するナラティブフォーマットにインスピレーションを受けたオリジナルIPを、日本のクリエイティブ産業に深いルーツを持つチームと一緒に作る。それが私の立ち位置です。最大の夢は、この活動が本物の漫画家や既存のIPとゲームを共同制作する道を開くことです。 『ホムンクルス』がゲームになったら想像できますか?『Serial Experiments Lain』は?探求されていない可能性がたくさんあります。難しい道のりですが、考えるだけでも充実感があります。

読者へのメッセージ

——3月からデモ版、4月からエピソード1とスピーディーな展開を予定されていますが、プレイヤーからのフィードバックを物語の結末に反映させる予定はありますか?

Denis氏:
3月末にデモをリリースするのが、プレイヤーを集めて認知を広げる大きな勝負です。そこからは、私たちの長期的なビジョンに合うパブリッシャーが見つかるかどうかにかかっています。誰からでもお金を受け取るよりも、志の合う人とつながることに関心があります。ベンチャーキャピタルの仕事を通じて、最後のマイルストーンで資金を引き上げてゲームのリリースを阻止するパブリッシャーに潰されたプロジェクトをいくつも見てきました。 エピソード形式は少しリスクがあります。プレイヤーは「アーリーアクセス」というモデルに対する信頼を失いつつある。でも、Black Tabby GamesやKit9 Studioのように、リリースのたびにゲームを成長させ続けるアプローチが可能になります。 TERROR WEB読者の皆さんへ。ここまで読んでくださりありがとうございます。 デモは日本語フルボイス、完全なサウンドデザインを搭載してリリースされます。ぜひ遊んでみてください。遊んでいただけたら、フィードバックはとても注意深く見ています。一見バラバラな行動をしているように見えるかもしれませんが、ちゃんとまとまってきているので、そう悪くはないはずです。

——ありがとうございました。

『Good Children Say Grace』は、2026年3月に無料デモ版、4月にエピソード1がPC(Steam)向けに配信予定だ。

タイトル公式Steamページ:https://store.steampowered.com/app/3881920/Good_Children_Say_Grace/
アナウンストレーラー:https://youtu.be/lF9ND-cql6w?si=CEpxWqLGDMkSBMWF
Denis Morozov氏個人X:https://x.com/morozovdenisss